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11月5日は「津波防災の日」です。安政南海地震(1854年)で太平洋沿岸に大きな津波被害があったことにちなみます。甚大な被害をもたらした東日本大震災からもうじき10年になります。津波はいつどこで発生するか予想ができず、見舞われた場合、生死にかかわります。命を守るために、津波の特徴や危険性、防災対策について今一度確認しておきましょう。
津波とは何か
津波とは、異常に大きな波が海岸に押し寄せる現象です。
海底で地震が発生した際に、海底の地盤に隆起や沈降、地滑りが発生し、その周囲の海水が上下に動くことで引き起こされます。海水が上下に大きく動くと沿岸に達する海水の量も増えるため、規模が大きくエネルギーが強い地震ほど、津波も大きくなりやすいです。海水がもたらす災害には、他にも波浪や高潮があります。津波が波浪、高潮とどう違うのかについても説明しておきます。
波浪と津波の違い
波浪とは、風によって発生する波です。
津波は海底から海面にかけてすべての海水が動きますが、波浪は海面付近の海水しか動きません。同じ10mの波の高さでも、波浪は海面付近の海水だけが動き、津波は海全体が押し寄せてきます。だから津波のパワーはけた違いに大きいのです。
波から次の波までにかかる時間を「波の周期」と呼び、波浪と津波では波の周期も大きく異なります。波浪は周期が10秒程度であるのに対して、津波の周期は2分~60分以上とかなり長くなっています。
波浪と津波では波長も異なります。波から次の波までの距離を「波長」と呼びますが、波浪が数m~数百mであるのに対して、津波の周期は数km~数百kmです。波長が長いほど動く海水の量も大きくなります。波長が長い津波は海の壁のように迫ってきます。
波浪:海面付近の海水だけが押し寄せる
津波:海底から海面まで海水全体が押し寄せる
高潮と津波の違い
高潮とは、台風や発達した低気圧によって海面の高さが通常よりも高くなる現象です。高潮も、海岸に海水が押し寄せる点では津波と同じなので、かつては高潮も「津波」と呼ばれていました。しかし現在は、台風や低気圧などの気象原因とするものを高潮、地震を原因とするものを津波と区別しています。高潮が起こる仕組みは、主に以下の2つです。
・気圧低下による吸い上げ効果
気圧が1hPa低くなると、海面にかかる圧力が減って海面が1cm上がる。
・強い風による吹き寄せ効果
台風や低気圧による強風や暴風が沖から海岸に向かって吹くと、海水は海岸に吹き寄せられて海岸付近の海面が上昇する。
津波に関する注意報・警報の種類
津波に関する注意報・警報の種類には「津波注意報」「津波警報」「大津波警報」と3つあります。それぞれの違いを説明します。
津波注意報→海から上がり、海岸から離れる!
「津波注意報」は、予想される津波の高さが0.2m~1m以下の場合に出されます。
海の中にいると津波の速い流れに巻き込まれるリスクや、養殖いかだの流失、船舶が転覆するといった被害が予想されます。津波注意報が発表されたら、海の中にいる人はただちに海から上がり、海岸から離れてください。
津波警報→安全な場所へ避難する!
「津波警報」は、予想される津波の高さが1~3m以下の場合に出されます。
標高の低いところは津波が押し寄せ、浸水被害や津波に流されるなどの人命に関わる被害が予想されます。また、河川に津波が浸入して、河口から離れた内陸の川沿いでも浸水被害が発生する可能性があります。沿岸部や川沿いにいる人は、ただちに高台やビルなど安全な場所に避難してください。
大津波警報→3m超の被害予想!
「大津波警報」は、予想される津波の高さが3mを超える場合に出されます。
重大な災害の起こる可能性が著しく高まっている場合に発表される、「特別警報」と同じ位置づけです。
家屋の全壊や流失などが起こり、津波に流されるなどの人命に関わる被害が予想されます。河川に浸入した津波が内陸部まで到達することもあるので、沿岸部にいる人だけでなく川沿いにいる人も、ただちに高台やビルなど安全な場所に避難してください
津波から身を守るには逃げるしかない
津波から身を守るためには、津波の影響を受けない場所に避難するしかありません。津波は地震を伴うため、地震も避難の目安の1つになります。津波から安全な場所への避難を開始するタイミングには、以下のようなときがあります。
・揺れの大きさにかかわらず持続するとき
・津波に関する注意報・警報が発表されたとき
大津波=巨大地震というイメージがあるかもしれません。
しかし、小さな地震だからといって油断は大敵です。小さな地震でも、揺れている時間が長くなるとそれだけ断層のずれも大きくなるので、大規模な津波につながる可能性もあります。
地震が発生してから早く避難すればするほど、遠くまで行くことができるため助かる確率が高まります。
避難はできるだけ高いところに向かうのが望ましいですが、地震によって山崩れやがけ崩れが起こりやすくなっているので、高台を目指す場合は周囲の状況も見つつ、十分に注意しながら避難してください。
大きな津波が予想されている海沿いの地域は、津波避難所を示す標識が設置されているので、海の近くにいる場合は避難場所を必ず確認しておきましょう。
住んでいる地域の津波リスクを知ろう
津波から身を守るためにもうひとつ大切なことを伝えておきます。住んでいる地域の津波リスクを知っておくことです。どのエリアにどれくらいの津波が予想されているかは、津波ハザードマップを確認するとわかります。
津波ハザードマップは、「重ねるハザードマップ」がわかりやすくて便利です。
重ねるハザードマップURL:
https://disaportal.gsi.go.jp/maps/index.html?ll=35.170721,139.815102&z=12&base=pale&vs=c1j0l0u0
「重ねるハザードマップ」では、災害種別で「津波」の項目を選択すると、海岸線に赤~紫で着色された部分が現れます。色によって予想される浸水深が異なり、赤色だと5~10m、薄い紫だと10m~20m、濃い紫だと20m以上になります。
津波によって浸水が予想される場所にカーソルを合わせてタップすると、想定される浸水深が表示されます。想定される浸水深を見る場合は、表示される一番大きな数値を参考にしてください。たとえば、浸水深が10~20mになっている場合は20mの浸水が起こる可能性があると考えてください。
海沿いに行く予定がある場合も、事前に津波ハザードマップを確認しておいて、浸水エリアになっている場合は、指定緊急避難場所も合わせて確認しておきましょう。
このようにスクリーンショットなどで画像保存しておくと便利です。
命を守るために津波の知識や理解を深めよう
津波災害に巻き込まれないためには、津波が発生してからとにかくできるだけ迅速に避難することが大事です。避難行動が遅れないように、津波ハザードマップで住んでいるエリアの津波リスクを正しく知っておきましょう。
津波の知識や理解を深めることは、津波が発生したときの迅速な避難や行動にもつながります。自分や家族の大切な命を守るためにも、津波防災の日を機に、あらためて津波について考えてみてください。
<執筆者プロフィル>
田頭 孝志(たがしら たかし)
防災アドバイザー/気象予報士
田頭気象予報士事務所
愛媛の気象予報士・防災士。不動産会社の会員向けの防災記事、釣り雑誌にコラムの連載・特集記事の執筆、BS釣り番組でお天気コーナーを担当したほか、自治体、教育機関、企業向けに講演を多数 ・防災マニュアルの作成に参画。
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