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災害などの非常時は多くの場合、突然やってきます。電気やガスなどのライフラインが止まったり、調理設備が不十分だったりする事態になるかもしれません。不自由な環境で備蓄食だけで生活していかなければならないことも考えられます。今回は、こうした非常時の食事を栄養の観点から見ていきます。必要最低限のもの、不足しがちなものを踏まえ、備蓄のコツと使うときの工夫を説明します。後半では一日に必要な栄養をカバーするレシピを3食分2セット紹介します。
最低限必要な栄養素と非常時に不足しがちな栄養素
人は寝ているだけでも心臓を動かし、呼吸などでエネルギーを消費します。これを基礎代謝エネルギーと呼び、生きるために最低限必要なエネルギーです。これに加えて、体を動かすための活動エネルギーも必要になります(量は個人差があります)。
エネルギーを持つ栄養素は、たんぱく質・脂質・炭水化物の3つで、三大栄養素と呼ばれています。主に主食(炭水化物)と主菜(たんぱく質・脂質)からエネルギーをとることができます。
非常食や支援物資の多くは、ごはん・パン・麺などの主食で、炭水化物が中心です。即効性のエネルギー源と、空腹を満たすことを重視した食料がほとんどなのが実情です。
実際の被災地では、野菜・肉・魚・乳製品などの生鮮食品が届くことが少ないため、たんぱく質やビタミン、ミネラル、食物繊維の不足が目立つという報告もあります。
栄養不足はあらゆる体調不良の原因となります。最初は体力低下・頭痛・めまい・不眠・肌荒れなどで、長引くと大きな病気につながる心配があります。
また、水分不足による脱水症状にも陥りやすくなります。普段の水分摂取は、必要な量の約半分を食事で、残り半分をお茶などの飲みものでとっています。ところが避難所や避難生活では、飲料水の配給が限られるなどのため水分の摂取量が少なくなりがちです。また、トイレの数が限られるなどトイレ利用に制約があって、できるだけトイレに行く回数を減らそうと水分摂取量を控えがちになります。水分の摂取不足は、脱水症・エコノミークラス症候群・慢性疾患の悪化などのリスクが高くなります。積極的に水分をとることや、水分の多い料理も取り入れることが大切です。
では、どんな非常食を備えたらいいのでしょうか。
一般的なごはんや麺類はもちろんのこと、不足しやすいたんぱく質やビタミン、ミネラル、食物繊維を補える食品も一緒に備えておきましょう。
◆たんぱく質の多い食品
缶詰(大豆水煮缶、サバ缶、ツナ缶、アサリ缶など)
乾物(高野豆腐、大豆ミートなど)
レトルト食品
◆ビタミン・ミネラル・食物繊維の多い食品
雑穀ミックス(白米と一緒に炊く)
乾物(海藻ミックス、カットワカメ、ひじき、切り干し大根)
缶詰(果物缶、ひじき缶、ミックスビーンズ缶、トマト缶など)
缶ジュース(果実ジュース、野菜ジュースなど)
ドライフルーツ、ミックスナッツなど
これらには長期保存できるものもありますが、賞味期限が1年未満のものもあります。定期的に見直し、消費して買い足す「ローリングストック」という方法がお薦めです。
一方で、非常時には過剰になりやすい栄養素が2つあります。
1つ目は塩分です。
非常食のおかず類、加工食品やインスタント食品も塩分が多めです。特にインスタントラーメンは、被災時には空腹を満たすためスープまで飲み干すことが多くなるようです。また、被災時は水が貴重品ですから、水分摂取が足りていないことも状況を悪化させます。このような状況で被災生活が長引けば、高血圧を招き、数々の病気やエコノミークラス症候群のリスクも高めてしまいます。
2つ目は、炭水化物です。
避難所でごはん・パン・麺など炭水化物ばかりの食生活が続き、後日糖尿病を発症してしまった例もあったそうです。
以上のように、非常食と支援物資には良い面と悪い面があります。主食(炭水化物)+主菜(たんぱく質)+野菜類(ビタミン・ミネラル)で、バランスの良い食事になります。
次に、ポリ袋やカセットコンロを活用した料理を紹介します。食材の選び方と調理で、できるだけバランスの良い食事になるよう工夫しましょう。
一日に必要な栄養をカバーするレシピ3食分①
非常食の主食(ごはん、パン、麺)と一緒に組み合わせるとよいおかず3品を紹介します。
サバ缶とキャベツ炒(いた)め
(不足しがちなたんぱく質食品と野菜をとれるレシピ)
サバ缶は、たんぱく質と体にいい油(DHA)を含み、日持ちする食材です。残っている野菜と一緒に炒めるだけの簡単料理です。
<材料> 2人分
サバ缶 1缶
キャベツ 1/4個
マヨネーズ 大さじ1
一味・七味 お好み
<作り方>
①キャベツはざく切りにする。(または手でちぎる)
②フライパンにサバ缶の汁とキャベツを入れ、しんなりするまで炒める。
③サバとマヨネーズを加え、サバを1口大サイズにほぐしながら炒める。
④器に盛り付け、お好みで一味・七味をかける。
<1人当たりの栄養量>
エネルギー:193kcal
たんぱく質:15.7g
脂質:12.2g
炭水化物:4.2g
食塩相当量:0.7g
海藻サラダ
(不足しがちなビタミン・ミネラル・食物繊維をとれるレシピ)
<材料> (4人分)
サラダ寒天 ひとつかみ(海藻ミックスでもよい)
カットワカメ ふたつまみ
タマネギ 1/2個
コーン缶 1/2缶
ドレッシング お好み
<作り方>
①ポリ袋にサラダ寒天と水を入れて戻す。
②タマネギをスライスする。
③鍋に湯を沸かし、カットワカメとタマネギを入れてサッとゆでる。
④ザルにあけ、水気をよく切って、冷ます。
⑤サラダ寒天もポリ袋の上からよくしぼり、水を捨てる。
⑥⑤のポリ袋に材料を全て入れ、かるくもむ。
<1人当たりの栄養量>
エネルギー:24kcal
たんぱく質:0.7g
脂質:0.5g
炭水化物:5.3g
食塩相当量:0.7g
切り干し大根のピリ辛和(あ)え
(不足しがちなビタミン・ミネラル・食物繊維をとれるレシピ)
切り干し大根には、カリウム・カルシウム・食物繊維が豊富に含まれます。
<材料> (4人分)
切り干し大根 30g
キュウリ 1本
しょうゆ 大さじ1
トウバンジャン 小さじ1
ごま油 小さじ1
白ごま 小さじ1
<作り方>
①切り干し大根は食べやすい長さに切り、ポリ袋に水と一緒に入れて戻す。(やわらかくする場合は、ゆでる)
②キュウリは千切りにする。
③ポリ袋の上から切り干し大根をよくしぼり、水を捨てる。
④キュウリ、白ごま、調味料を加えてよくもむ。
<1人当たりの栄養量>
エネルギー:42.1kcal
たんぱく質:1.2g
脂質:1.5g
炭水化物:6.5g
食塩相当量:0.9g
一日に必要な栄養をカバーするレシピ3食分②
主食(米・麺)に一工夫をすることで作れる一品料理です。
フライパンでツナ缶パエリア風
(不足しがちなたんぱく質食品と野菜をとれるレシピ)
停電で炊飯器が使えなくても、フライパンでパエリア風にすれば、主食のごはん(炭水化物)が食べられます。トマト缶やツナ缶などと一緒に入れれば、たんぱく質やビタミン類も摂取できます。
<材料> 4人分
米 2合
タマネギ 1個
ツナ缶 1缶
カットトマト缶 1缶
コーン缶 小1缶
ニンニクチューブ 小さじ1
オリーブオイル 大さじ1
水 1カップ(200ml)
塩 小さじ1/2
<作り方>
①米をとぐ
②タマネギをスライスする
③フライパンに、オリーブオイルとニンニクを熱し、タマネギを強火で炒める。
④ 米、ツナ缶、トマト缶、コーン缶、水、塩を入れ、軽く混ぜる。
⑤ 沸騰したら、弱火~中火で蓋をして、水分がなくなるまで15~20分加熱する。
<1人当たりの栄養量>
エネルギー:408kcal
たんぱく質:10.2g
脂質:8.4g
炭水化物:71.2g
食塩相当量:1.8g
フライパン1つで!野菜ジュースと大豆ミートのパスタ
(不足しがちなたんぱく質食品と野菜をとれるレシピ)
大豆ミートはたんぱく質食品で日持ちもする、軽くて便利な食材です。パスタをゆでる時に野菜ジュースを使えば、ビタミン類を補えます。
<材料> (2人分)
スパゲティ 2束(160g)
大豆ミート(ミンチタイプ) 40g
タマネギ 1/2個
ニンニクチューブ 小さじ1
オリーブオイル 大さじ1
野菜ジュース 400ml
水 400ml
コンソメ(かりゅう) 小さじ2
<作り方>
①大豆ミートを水で戻す。
②タマネギをみじん切りにする。
③フライパンにニンニクとオリーブオイルを熱し、タマネギを炒める。
④大豆ミートの水気をしぼり、③に加える。
⑤野菜ジュース・水・コンソメを加え、スパゲティを半分に折って入れる。
⑥蓋をして中火で煮込み、麺をほぐすように時々かき混ぜる。
(通常のゆで時間より長くかかる)
(麺がやわらかくなる前に水気がなくなったら、水を追加する)
⑦麺が適度の固さになったら、蓋をあけて水分を飛ばす。
<1人当たりの栄養量>
エネルギー:497kcal
たんぱく質:21.6g
脂質:8.7g
炭水化物:80.6g
食塩相当量:1.2g
少量ずつごはんに混ぜ込む 万能ひじき煮
(不足しがちなビタミン・ミネラル・食物繊維がとれるレシピ)
ひじきはカルシウム・鉄・食物繊維を多く含みます。日常的にもいろいろな料理に使えるレシピです。
<材料>
ひじき(乾物、米ひじき・芽ひじき) 20g
しょうゆ 大さじ4
砂糖 大さじ2
<作り方>
① ひじきを水で戻す。
② 鍋に、ひじきとしょうゆと砂糖を入れて、火にかける。
③ 煮汁が少量残る程度まで煮詰める。
<全量当たりの栄養量>
エネルギー:148 kcal
たんぱく質:7.7g
脂質:0.3 g
炭水化物:36.4g
食塩相当量:11.2 g
<活用法>
・ごはん:混ぜ込みひじきご飯や、ごはんのおとも
・煮物:大豆、ニンジン、油揚げをゆでて、万能ひじき煮をあえる
・サラダ:キュウリと万能ひじき煮をマヨネーズであえる
・あえ物:青菜のお浸しや白あえに混ぜる
・具:ハンバーグやつくね、卵焼きの具にする
まとめ
非常時は、不自由な環境の中、備蓄食などだけで生活を維持しなければなりません。
また、被災地全体の衛生状態が悪いこと、洗浄・殺菌の資材が不足すること、普段は大量調理をしていないスタッフが炊き出しをすることなどから、食中毒などが発生しやすい状況にあります。手洗いや除菌ティッシュなどを活用して、衛生面に配慮しましょう。
食事に特別な配慮が必要な家族がいる場合、注意が必要です。食物アレルギーや、腎臓病、糖尿病、高血圧などの持病で食事制限が必要であったり、乳幼児や妊娠中、授乳中の女性、ものを飲み込む機能が低下している高齢者がいたりするなどです。このような場合は普段から3日~1週間分の食事を備えることが大切です。
非常食を備蓄する際は、一般的なごはんや麺類はもちろんのこと、不足しやすいたんぱく質やビタミン、ミネラル、食物繊維を補える食品も、一緒に備えておきましょう。
<執筆者プロフィル>
高山 菜々子
管理栄養士
日本栄養士会災害支援チーム(JDA-DAT)スタッフ
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