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日本では、台風や梅雨、低気圧などの集中豪雨によって水害が頻繁に発生します。特に川沿いで起こりやすく、川の場所によって起こりやすい水害も異なります。
住まいや職場が川の近くにある場合、自分がふだんいる場所にどのような水害のリスクがあるのか正しく理解して備えておきましょう。今回は、川の全域、上流~中流、下流~河口にわけて、エリアごとに注意すべき水害を紹介します。
川が近くある場合 すべての人が注意すべき災害
住まいや職場が川の近くにある場合、すべての人が注意すべき災害として、大雨による河川の氾濫・浸水や堤防の決壊による浸水があります。それぞれの災害について解説します。
大雨による河川の氾濫・浸水
最初に「氾濫」と「浸水」について説明しておきます。大雨などによって川の水量が多くなり、河川から水があふれて氾濫することを「洪水」と呼びます。
一方、洪水や大雨によって住宅や農地が水に浸(つ)かることを「浸水」と呼びます。
ちなみに、洪水と浸水では、対象となる警報が異なります。
「洪水警報」は、河川の増水や氾濫、堤防の損壊・決壊が予想されるときに発令されます。
一方、「大雨(浸水害)警報」は、大雨によって河川の氾濫や側溝の水などがあふれ、住宅や農地が水に浸かる被害が予想されるときに発令されます。
大雨(浸水害)警報は、大雨が降っているときや予想されるときに発令されますが、洪水警報は雨が降ってなくても、雪解け水や上流で強い雨が降って増水するときにも発令されます。
また、大雨(浸水害)警報と洪水警報はセットで出されることもあります。
家や職場が川沿いにある場合、大雨(浸水害)警報・洪水警報のどちらか1つでも出ていれば、警戒が必要です。
堤防の決壊による浸水
氾濫にも「外水氾濫」と「内水氾濫」があります。
堤防の決壊による浸水は、「外水氾濫」と呼ばれています。決壊した堤防から川の水が住宅地に流れ込んで、住宅や農地に浸水被害をもたらします。
大雨によって排水溝やマンホールから水があふれて、住宅地や農地が浸水するケースもあります。これは「内水氾濫」と呼ばれています。
家や職場が川の近くにある場合、堤防の決壊によって生じる外水氾濫による災害に加え、周辺よりも低地に位置している場合は、内水氾濫による災害にも注意しなければなりません。
川の上流~中流で特に注意すべき災害
川の上流から中流にかけては標高が高くなって山地になるため、土砂災害のリスクが高まります。また、川は河口に向かうほど川の支流が合わさって川幅が広くなり流量も増えます。そのため、同じ雨量なら、川幅が狭くもともとの対応可能量が小さい上流のほうが、短時間で増水や洪水が発生しやすくなります。
これらの特徴を踏まえ、川の上流~中流で特に注意すべき災害を紹介します。
土砂災害
日本の河川は、川の長さが短く上流から下流への勾配が急で、上流~中流は山で囲まれています。そのため、河川の上流~中流においては河川の氾濫だけでなく、土砂災害のリスクも高くなります。
下の画像では、新潟県付近の土砂災害・浸水リスクを示しています。
赤い丸枠で囲んでいるのは阿賀野川です。
下流~河口は浸水リスクがあるエリアだけですが、上流~中流は等高線からわかる通り丘陵や山間部にあるため土砂災害のリスクが増えているのがわかります。
川によっては河口付近まで山に囲まれて、下流でも土砂災害のリスクがある地域もありますが、基本的には上流に行くほど土砂災害のリスクも高まる傾向があります。
短時間強雨による増水・氾濫
上流の場合、河川の氾濫も、下流とは異なるリスクがあります。
上流だと川幅が狭いため大雨が降るとただちに増水し、雨が降ってから氾濫するまでの時間は下流に比べて早くなります。特に夏は川の上流域にあたる山間部で夕立(短時間強雨)が起こりやすく、川の状態が急激に変わりやすいため、命を守るためにより注意が必要です。
下流では大雨が降ってしばらくしてから増水・氾濫します。そのため、避難をするまでに時間的な猶予があり、早めの避難で河川の氾濫から命を守ることができるのです。
川の下流~河口付近で特に注意すべき災害
川は下流に行くほど流れが緩やかになり、川幅が広がります。下流ほど川幅が広いのは、支流からの水と合流して水量が増加することに加え、地形がなだらかになって川の流れる速度が遅くなり横に広がるためです。
川の下流~河口付近は海の影響を受けることから、高潮や津波など海の災害が発生するケースがあります。ここでは、川の下流~河口付近で特に注意すべき災害を紹介します。
高潮による浸水
高潮は、台風や発達した低気圧による気圧の低下や強い風が海面を吹き寄せることによって、通常よりも水位が高くなる現象です。
川の下流や河口付近では、本来なら川から海に流れる水が、高潮によって海から川へと逆流して氾濫が起きるケースがあります。
特に潮位が高くなる満潮時は、高潮による川の逆流が発生しやすいタイミングです。
上流で大雨が降っているときは、上流からの水と高潮によって海から逆流する水が合わさります。このとき下流付近で水の逃げ場がなくなって大規模な氾濫や浸水が発生することもあります。
高潮注意報や高潮警報が発令されている場合は、満潮時を中心に下流や河口付近の氾濫や浸水への注意が必要になります。
津波による浸水
川の近くで起こる災害に、津波による浸水があります。津波というと海を連想する方が多いと思いますが、川でも起きうるのです。
東日本大震災では、宮城県と岩手県を流れる北上川で、津波が河口から49kmまで遡上(そじょう)し、河口から12km付近までの地域に浸水などの被害が及びました。
川を遡上する津波は、陸上に浸入する津波に比べて摩擦の影響が小さいため、川沿いのほうが先行して津波の被害を受けやすい特徴があります。
河川を遡上する津波を「河川津波」と呼びますが、海から離れているからといって津波の危険がないわけではありません。
ハザードマップで災害リスクを確認しましょう
川の近くに住んでいる人は、大雨による河川の氾濫や浸水をはじめ、山が近くにある場合は土砂災害、下流や河口付近では高潮や津波被害にも注意しなければなりません。
自分の住んでいる場所で起こりうる災害はハザードマップで知ることができます。
ハザードマップを確認して「住んでいる地域にどんな災害リスクがあるのか」「災害時に避難所までどうやって避難するか」などを家族で話し合い、災害に備えましょう。
<執筆者プロフィル>
田頭 孝志(たがしら たかし)
防災アドバイザー/気象予報士。田頭気象予報士事務所
愛媛の気象予報士・防災士。不動産会社の会員向けの防災記事、釣り雑誌にコラムの連載・特集記事の執筆、BS釣り番組でお天気コーナーを担当したほか、自治体、教育機関、企業向けに講演を多数 ・防災マニュアルの作成に参画。
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