防災移転や共助の活用…国難級災害に求められる「総力戦」とは

写真説明:「最重要課題から取り組む」をモットーに掲げる。「重要なのに、解決されないまま残っている課題は難しくて当然。できない理由探しではなく、実現する方法を考える」と語る目黒公郎氏(東京都目黒区駒場の東大生産技術研究所で)

目黒公郎・東京大教授インタビュー

首都直下や南海トラフのような大規模地震のリスクに加え、気候変動による気象災害の激甚化も進む日本。その備えに大きな転換を迫る研究者がいる。東京大の目黒公郎教授(地震防災)は日本が近い将来直面する「国難級災害」に対処するには、「貧乏になっていく中での総力戦」を覚悟しなければならないと説く。

少子高齢化と国家財政の逼迫(ひっぱく)で限界に達した「公助」中心の防災から、「自助」「共助」を軸にした防災へ。総力戦を闘うには「災害大国」として培った技術と経験を生かした「防災ビジネス」の国内外での積極的な展開が必要というのが持論だ。関東大震災から2023年9月で100年。新しい防災の形を考える。

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富の集積が災害への脆弱性を高めてしまう

大きな時代認識から始めたい。

人類は協力して価値を生み出す「共創」と、他の集団との交易で繁栄を築いてきました。手に入れた技術や知識で食料や製品の生産を増やし、人口密度が高く、効率的な都市を発展させた。その一方で、人類は災害や感染症に対する社会の脆弱(ぜいじゃく)性も高めてしまった。

災害の規模は同じでも、人口や富の集積が進めば人的、経済的被害は格段に大きくなる。人と人の距離が近いと、パンデミックにも陥りやすい。災害や感染症にさらされる空間に、人命、財産、社会的機能を増やしてきた結果です。

南海トラフ地震の経済影響は1500兆円超

最たる例が近代化以降の日本でしょう。大災害がたびたび起きる太平洋ベルト地帯、特に首都圏に人口と機能を集中させてきた。土木学会が2018年に公表した推計では、首都直下地震の発生後20年間の経済影響が間接被害を含めて855兆円、南海トラフ地震は1541兆円に達します。110兆円余りの国家予算、550兆円程度の国内総生産(GDP)と比べても、被害額は桁外れです。

関東大震災は戦争に向かうきっかけにもなった

当時の国家予算の4倍を超える直接被害を出した関東大震災は、日本の近現代史の大きな節目になりました。第1次大戦に勝利した後、普通選挙を求める運動や労働運動が活発になった。そんな時代に、首都圏は壊滅的被害を受けました。

写真説明:関東大震災後、東京駅前から日本橋方面を撮影した写真。火災で一帯が焼け野原となっていた(気象庁特設サイトより)

国家の存立を脅かす大災害が発生すると、巨額の財政出動や私権の制限を伴う措置が必要になります。その結果、国家権力は強大化し、社会は全体主義的傾向を強めやすくなる。大震災直後から民主勢力の弾圧が強まり、日本は戦争に向かう坂道を転げ落ちました。

首都圏には当時より多くの人材や経済基盤が集積しています。事前の備えなしに被災すれば、戦後に築いてきた自由な社会が揺らぐ可能性も否定できない。不幸な歴史を繰り返してはなりません。

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