南海トラフ地震時の重要拠点 名古屋港の備えは万全か

東日本大震災では、多くの港湾が地震や津波によって被害を受け、経済活動への影響が大きかっただけでなく、緊急支援物資を届ける船が接岸できないなど、災害支援にも支障が出た。南海トラフ地震で防災拠点となることが期待される名古屋港が機能停止となれば、復興への打撃も計り知れない。名古屋港の防災対策はどこまで進んだのか。

高潮防波堤や岸壁の補強が進む

名古屋港の入り口には、総延長約7・6kmに及ぶ高潮防波堤が設置されている。うち約4・5km分は、東日本大震災を受け、2017年3月までに改良工事が行われた。

写真説明:東日本大震災後かさ上げ(白い部分)などの改良工事が行われた高潮防波堤(写真はいずれも2021年3月3日、名古屋港で撮影)

元の防波堤は、高潮が大きな被害をもたらした1959年の伊勢湾台風を受け、1964年に完成。老朽化が進んでいる上、南海トラフ地震では、港内で最大3・6mの津波が予想され、液状化による地盤沈下も危惧されている。このため、最大3mのかさ上げや本体部分の補強を行い、高潮は約30%、津波は約15%軽減できるようになった。

◆名古屋港

名古屋港

耐震強化岸壁の整備も進められている。名古屋市港区の金城ふ頭や大江ふ頭は緊急物資の輸送機能を確保するため、愛知県飛島村の飛島ふ頭や弥富市の鍋田ふ頭は貨物輸送用としての役割が想定されている。

 

写真説明:災害時、緊急物資の輸送が想定されている金城ふ頭

長年の懸案「ポートアイランド」の積みあがった土砂

一方、長年の懸案となっているのが、名古屋港の浚渫(しゅんせつ)土砂置き場の「ポートアイランド(PI)」だ。積み上がった土砂が計画の高さを超えており、地震などで崩れるおそれがある。

名古屋港は水深が浅いうえ、庄内川などから常に土砂が流入している。そこで、大型貨物船の航路を確保するために、年間50万~100万㎥の浚渫を続ける必要がある。そこで飛島ふ頭の南約1kmに設けられた人工島がPIで、1975年に土砂の搬入が始まった。

写真説明:浚渫土砂が仮置きされているポートアイランド。土砂は沖合に係留されたポンプ船(写真右下)からパイプを通して搬入される

当初は、土砂の搬入は海面からの高さ5・31mまでとしていたが、すぐに埋まり、1991年度からは仮築堤を設置して、土砂の「仮置き」が続いている。

写真説明:ポートアイランドには、三段階で最大18mまで仮築堤が設置されている

数年以内に容量オーバー 地震発生で港は…

中部地方整備局名古屋港湾事務所によると、現在のPIの総面積は257haで、仮築堤の高さは最大18m。既に16~17mの高さまで土砂が積み上がっており、数年以内に容量オーバーとなる見込みという。板生考司副所長は「18mを大きく超えて巨大地震が発生すれば、崩壊して航路を塞ぎ、港湾機能に支障が出る可能性もある」と話す。

◆ポートアイランドでの土砂の仮置きイメージ(断面図)

酒井崇之・名古屋大助教(地盤工学)らは2015年、PIの耐震性をコンピューターで解析。PIは主に港湾海底にたまった泥や砂で埋め立てられており、高さ約20mでは仮築堤を乗り越えて土砂が流出する危険性が高い、との結果が出ている。

写真説明:現在のペースで搬入が進めば、ポートアイランドは数年内に満杯となる見通しだ

新たな土砂搬入先確保のため、同整備局は2021年2月、中部国際空港(愛知県常滑市)の新滑走路候補地を含む海域の埋め立て承認申請を行っており、護岸工事が2021年度中にも始まる見通しだ。ただ、共同で研究に当たった中野正樹・同大教授は「地震被害を軽減するには、PIの高さを少しでも低くする必要がある」と指摘している。

(読売新聞 2021年4月4日掲載 編集センター・内田郁恵)

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