総合検証論集「東日本大震災からの復興」で伝えたかったこと

飯尾潤政策研究大学院大教授

監修者の飯尾潤政策研究大学院大教授に聞く

東日本大震災10年を経て、原発事故に関連するものを除けば、復興事業は終わりつつある。この間の対応の課題や評価する点を探った論集「総合検証 東日本大震災からの復興」(岩波書店)が刊行された。監修者の一人、政策研究大学院大の飯尾潤教授=写真=に、「復興」について総体的に振り返ってもらった。

論集の概要

監修は飯尾教授のほか、ともに東日本大震災復興構想会議の中心メンバーだった五百旗頭真、御厨貴の両氏。さらに、成蹊大の井上正也教授や東大の牧原出教授ら計19人が、復興政策や危機管理を考察した。義援金などの被災者支援や住宅地造成などの地域再生、自治体連携などが論じられ、復興を振り返ることで、今後の備えにも役立つ内容だ。

評価できること

「復興事業を経て、津波の被災地は安全な町に生まれ変わった。費用がかかりすぎたとの批判はあるが、それは地元の意向にできるだけ沿ったから」と説く。さらに、復興事業費に占める被災者支援の割合が高まり、土木事業費の割合が下がったことも大きな特徴という。

ソフト面でも、日本全体の防災力が高まったとする。頻発する災害で経験を積んだボランティアやNPO団体が増え、各自治体から応援職員が被災地入りすることなどで、人材ネットワークが幾重にもできたからだ。被災地に志を持って移住する若者も多かった。「こうした人材は『日本の財産』。日本人の防災感覚も変わり、災害と共に生きる覚悟を固めたように見える」

課題と誤算について

課題はなかったのか。飯尾教授は、空き区画が目立つ住宅用地や産業用地について、全住民の帰還などを目標にしなくてもよかったかもしれず、水産加工業の衰退などの誤算もあったと振り返る。また、復興途上では問題とされたが、すぐに忘却されたものが多かったとも語る。例えば、大量のがれきの処理。「危険な場所に積んだのだから、処理を急がずともよかったのに、大騒ぎされて役所が対応に追われ、住民との対話が遅れた」と指摘する。

大切なのは、「想定外」は起こり得ると想定し、備えを十分にすることという。緊急時には、平時から非常時に速やかに「モード」を切り替えることの大切さも強調する。この意識変革はまだ不十分と指摘するが、少しずつ変化の兆しは見えていると、肯定的に語る。「世の中がガラリと変わらなくても怒らず、次の段階に進めていけばよいのです」

東日本大震災からの復興

◆「総合検証 東日本大震災からの復興」岩波書店 税込み4,400円

(読売新聞 2021年4月6日掲載 文化部・小林佑基)

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