予知からの転換 地震防災は阪神大震災から始まった

どの地域にも大地震のリスクがある

政府の地震調査委員会委員長を務める平田直・東京大教授に、阪神大震災後の地震学について聞いた。

研究成果を広く伝える仕組み

正直、震災が起こるまで地震学を防災に役立てるという意識は薄かった。当時は文化人や自治体の首長までも関西で地震は起きないと信じ、地震学の成果が正しく社会に伝わっていなかった。

 

そうした反省から震災の半年後、政府の地震調査研究推進本部が設置された。国が一元的に防災に役立つ研究成果を国民に伝える体制ができ、震度6弱以上の地震が30年以内に起きる確率を示す「全国地震動予測地図」の作成などが行われた。震災後の大きな変化といっていい。

 

地震は地下の岩盤に力が加わって破壊される現象だが、毎回同じようには起こらない。しかも大地震が発生する周期は100年とか1000年に1度とデータも乏しい。予知に必要な理論を作るのが困難な理由がそこにある。だから科学的データに基づいた確率を示すことが防災上重要になる。岩盤に加わる力の強度などがもっと正確にわかれば、天気予報のように地震が起こる確率が出せるかもしれない。現在の研究はそうした方向を目指している。

 

阪神大震災で危険性が知られるようになった活断層についても、発生確率で評価されるようになった。震災を起こした「野島断層」も活断層の一つで、推進本部は現在、マグニチュード(M)7程度の地震発生の恐れがある全国114の活断層について、地震の発生確率を表す「長期評価」を示している。

科学的データから日常の備えに

活断層は地震によって断層が地表に現れたものだ。しかし、鳥取、島根県などで繰り返される地震を含め大半は痕跡を残していない。だから「活断層が近くにない」と安心してしまう人がいるという課題も出ている。

 

M7程度の地震は毎年のように日本のどこかで発生する。はっきり言えるのはどの地域にも大地震のリスクがあるということだ。期待されるような予知は難しいが、科学的にわかっているリスクをみんなが納得できる形で伝え、日常的な備えを促すことが地震学の使命だ。

写真説明:平田直・東京大学教授

<プロフィル> ひらた・なおし 1978年、東京大理学部卒。82年、東大博士課程退学。東大地震研究所助教授などを経て、98年から同研究所教授。2016年から政府の地震調査委員会委員長。南海トラフ地震の発生可能性を分析する気象庁の評価検討会会長も務める。

(以上は掲載当時、2020年4月から防災科学技術研究所 首都圏レジリエンス研究推進センター長)

 

(読売新聞 2019年12月6日掲載 科学医療部・長尾尚実、諏訪智史)

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