3.11秘話 ディズニーランド「負傷者ゼロ」の実相

激しい揺れに子ども2人を抱えた主婦は死も意識した

「人間ってこういう時に死んじゃうんだ」

東京ディズニーランドの入場口近くにある「れすとらん北斎」。当時2歳の長女、生後11か月の長男とともに食事をしていた愛知県豊田市の主婦(38)は直感的に思った。

たまたま夫は席を外していた。何とか長男をテーブルの下に押しやったが、揺れがあまりにも激しく、長女が乗っていたベビーカーをつかんでいるのが精いっぱい。「限界だ」。そう思った瞬間、若い男性のキャスト(スタッフ)が主婦に駆け寄り、ベビーカーをしっかり支えてくれた。

キャストの助けで揺れに耐えた主婦は、「自らも無防備な状態だったのに、命がけで守ってくれた」と、感慨深げに振り返る。

年180回「震度6強 来園者10万人」訓練

1983年にシンデレラ城などがある「東京ディズニーランド」が、2001年には海をテーマにした「東京ディズニーシー」が開業したTDR。実は1995年の阪神大震災の前までは、防災訓練といえば火災を想定した訓練だった。

だが、都市が壊滅的な打撃を受けた阪神大震災を受け、運営会社のオリエンタルランドは地震対策基本計画を策定。「冬の午後6時、震度6強、来園者10万人」の想定で年180回に及ぶ訓練を繰り返した。

行動基準の最優先は「来園者の安全」

キャストたちには四つの行動基準を徹底した。「Safety(安全)」「Courtesy(礼儀正しさ)」「Show(ショー)」「Efficiency(効率)」。頭文字から「SCSE」と呼ばれるこの基準では、最初のS、つまり「来園者の安全」が最も優先された。

そして2011年3月の震災当日。両園合わせて約1万人に上るキャストたちは、それぞれ訓練と行動基準に沿って、「頭を守ってしゃがんでください」などと来園者らに声をかけた。

シーのアトラクション「マーメイドラグーンシアター」にいた川崎市の男性会社員(32)は、地震発生直後、人気キャラクターのアリエルに扮(ふん)した女優が上空につり下げられたまま、動じることなく笑顔で来園者に手を振っていた姿が忘れられない。

「どんな時でもアリエルに徹していて、さすがディズニーだと思った」

安全確認ができず建物内に入れない

そんなTDRにも、誤算はあった。

日が暮れるにつれ、園内はどんどん冷え込む。来園者たちには建物の中で休んでもらいたいが、そのための安全確認が、遅々として進まなかった。

当時、同社には被災建築物の危険性を判断する「応急危険度判定士」の資格を持つスタッフが少なく、効率的な点検ルートも定まっていなかった。特に、シーに比べて建物が多いランドでは作業に手間取り、来園者らが3月の寒空の下で待たされる事態となった。

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