災害時に新型コロナウイルスの感染防止対策として、テントの活用が注目されている。避難所内で「密閉」「密集」「密接」の「3密」を避けられるほか、屋外の設置も可能だ。自治体がテントの備蓄を進める動きも広がっている。
自治体は避難所の「3密」回避に
2020年9月6日、非常に強い勢力の台風10号が九州に接近した。その夜、長崎県五島市の市勤労福祉センターでは3密対策で避難者を約270人に限定したが、約350人が押し寄せた。市は急きょ避難所のエントランス付近にテント約30張りを設置。ペットと一緒に避難した家族連れらが利用した。
市の担当者は「テントを備蓄していたことから、訪れた避難者のほぼ全員に安全な場所で過ごしてもらえた」と振り返る。
写真説明:台風接近で、避難所のエントランス付近に設置されたテント(2020年9月6日、長崎県五島市で)
一方、別の地域ではテントを用意していない避難所もあり、避難者があふれるケースもあった。
空きスペースに置けてプライバシーも守れる
避難所不足の問題は過去にもたびたび起きており、1995年の阪神大震災では、被災者が避難所に殺到し、室内は密集状態となった。また2019年10月の台風19号では、東京都内で複数の避難所が満員となり、新たに訪れた住民を受け入れることができず、別の避難所へ移動してもらう事態も起きた。
コロナ禍では、避難所の収容人数がさらに限定される。このため各自治体は対策の一つとして、空きスペースで活用でき、プライバシーも守れるテントの備蓄を進める。
写真説明:(左)阪神大震災直後、住民であふれた兵庫県西宮市の避難所(1995年1月)、(右)台風が接近したが、「3密」対策で収容人数が限定された長崎県五島市の避難所(2020年9月)
大阪府池田市は2020年7月に、箕面市など周辺4市町とテントの設営訓練を実施。効果を確認し300張りを購入した。広島市では約850張りを購入し、発熱などの症状が出た人を優先にテントを使ってもらう計画だ。
◆感染防止対策でテントの準備を進める主な自治体
テントは屋外の避難でも活用できる。2016年の熊本地震では競技場内に設置され、大勢の住民が避難し、エコノミークラス症候群の予防に役立ったという。
◆テント活用のメリットとデメリット
写真説明:2016年4月の熊本地震では屋外にテントが設置された(熊本県益城町で)=同町提供
兵庫県立大の室崎益輝教授(防災計画学)=写真=は「避難先の選択肢は複数あっていいが、コロナ禍で安全な避難先を考える上で、テントの活用は有効な避難方法の一つといえる」と語る。
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