災害時ご近所つながり「支え合いマップ」で孤立防止

甚大な被害を引き起こした東日本大震災から10年。この間も地震や豪雨などによる災害は各地で相次ぎ、多くの地域で住民の高齢化も進んだ。ふだんから「ご近所の支え合い」の関係を確かめ合っておき、いざという時に備える取り組みの重要性が高まっている。

岩手・釜石 支え合い関係ができていると…

2021年1月中旬の朝、岩手県釜石市の東前町内会で活動する黒沢義子さん(76)の携帯電話が鳴った。「母ちゃんの調子が少し悪いみたい」。近所の高台にある一軒家で90歳代の母親と暮らす60歳代の女性からのSOSだった。

「いますぐ行くから」。駆けつけると、食卓で車いすに座ったままぐったりした様子。女性と2人がかりで体を支えてソファに寝かせ、少し様子を見ていると、唇に赤みが戻った。

気がかりな人の情報を地図で共有する

同町内会では2020年10月、日常生活や災害時に周囲の支えを必要とする人がどこに住んでいるのかがわかる「支え合いマップ」を作成した。気がかりな人の情報を持ち寄り、地図に書き込んで共有する仕組みだ。

「電話を受けた時、女性の母親が以前も倒れたことを思い出して少し不安になった」というが、「マップを作ったことで心の準備もできていたから、すぐに動けた」と黒沢さんは振り返る。

マップには、「高齢で一人暮らし」「夫がほとんど外出していない」といった情報が書き込まれている。黒沢さんら町内会の4人が近所の高齢世帯などを訪ね歩き、作り上げたものだ。

釜石市は東日本大震災で津波による大きな被害を受けた。同町内会は約60世帯。震災前の3分の1だ。町内会長の佐藤和夫さん(72)は「7割ほどは高齢者だけの世帯で、地域を丁寧に見守る必要性が高まっている」と話す。

写真説明:「支え合いマップ」を広げて話し合う佐藤さん(右端)ら作成メンバー(画像は一部修整しています)(釜石市社会福祉協議会提供)

草の根的に市の約3割の地域に広がる

マップ作りは住民主体の草の根的な活動だが、同市社会福祉協議会も支援しており、市全域の約3割の地域で取り組まれている。

スタートは、震災の3年前。仮設住宅で民生委員の訪問を拒んでいた高齢男性のケースでは、マップに書き込まれていた知人に連絡して一緒に訪ねてもらい、行政の支援につながったという。マップの作成に携わってきた市社協の菊池亮さんは「地域の住民同士のつながりがわかることで、災害時などに孤立を防ぐ手がかりにもなる」と話す。

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