復興構想会議議長だった五百旗頭真氏の震災10年

意見のぶつかりあいを経て2か月後に報告書に

遠慮会釈なく個性的意見をぶつける委員が多く、会議は5時間に及ぶ日もありました。民主党政権の「反官僚」の方針も気になる点でした。会議発足時に事務局に派遣された各省庁からの担当者はわずか10人ほどでした。これでは、官僚の持つ豊富なノウハウを生かせません。議論を重ねるごとに積み上がっていく宿題に応じきれないので、首相に直談判し、50人ほどに増やしてもらいました。

初会合から2か月余で、被災地の創造的復興の青写真を示した報告書「悲惨のなかの希望」をまとめました。衆参ねじれ国会の状況で、政局は「大丈夫か」という不安は常にありました。6月25日、首相に報告書を手交する際、報告書の最後に記した「政府がこの提言を真摯(しんし)に受け止め、誠実にすみやかに実行することを強く求める」という箇所を読み上げて念押ししました。

幸い、翌7月には、報告書の内容が政府の復興基本方針に落とし込まれたことに一安心し、秋からは被災地につち音が高く響き渡ることを期待しました。しかし、菅(かん)首相退陣を巡る政局などの影響で、復興に向けた動きが停滞したのは残念でした。11月に野田佳彦首相(当時)の下で会議が開かれた際に、私は「率直に言って遅すぎる」と苦言を呈しました。

後追いではなく「防災庁」のような機関創設を

大震災をきっかけに自治体間の広域連携が全国化するなど、多くの面で前進しましたが、繰り返す災害に対する備えは十分とは言えません。

今年2月13日、東北地方を大きな地震が襲いました。南海トラフ地震や首都直下地震の発生も時間の問題です。日本の防災は災害が起こってから大騒ぎし、後追いしてきました。対応を事後的に検証する動きが出てきている点は評価しますが、検証したものを蓄積し、様々な状況を想定して備えていくためには「防災庁」のような専門的な機関を作ることが必要です。

五百旗頭真氏 <プロフィル> いおきべ・まこと 専門は日本政治外交史。神戸大教授、防衛大学校長、東日本大震災復興構想会議議長、熊本県立大理事長などを経て現職。77歳。

(読売新聞 2021年2月24日掲載 政治部・依田和彩)

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