17年ぶり改定! 富士山の噴火で溶岩流が新幹線を分断する!?

ハザードマップ 富士山火山防災対策協議会が公表

大量の溶岩が、日本の「大動脈」を分断する――。富士山噴火のハザードマップ(災害予測地図)が17年ぶりに改定され、新幹線や高速道路の一部が溶岩流にのみ込まれるという想定が示された。富士山は300年余り沈黙を続けているが、実は「噴火のデパート」と呼ばれるほど多様な噴火を起こすことで知られる。ひとたび噴火すれば、周辺地域で何が起きるのか。

ハザードマップは山梨、静岡、神奈川3県などでつくる「富士山火山防災対策協議会」が2021年3月に公表した。

富士山で過去最大級だった貞観(じょうがん)噴火(864~866年)の溶岩噴出量が東京ドーム約1050杯分(約13億㎥)だったとする推定結果や、新たに見つかった火口など最新の研究成果を基に推計したところ、溶岩流の到達可能範囲は過去の想定より広がった。

被災自治体は静岡、山梨両県の15市町村から、神奈川県を含む3県27市町村に拡大。火口の位置や噴火規模によっては、東西を結ぶ大動脈の東名、新東名高速道路まで最短2時間前後、東海道新幹線まで5時間で到達する恐れがある。

 

■溶岩流の最大到達範囲

富士山の溶岩流の特徴

溶岩流の到達距離が長いのは、噴火規模の大きさだけが要因ではない。溶岩の粘り気は火山ごとに異なるが、富士山の溶岩は日本では少ないサラサラとしたタイプだ。これが美しい稜線(りょうせん)を作り出した大きな理由だが、遠くまで流れやすい。

一方、国内の火山に多いどろっとした溶岩は流れにくく、火口の上に盛り上がる場合もある。こうしてできた「溶岩ドーム」が崩れて火砕流が発生することがあり、1991年には長崎県雲仙・普賢岳で43人の死者・行方不明者が出た。

富士山の溶岩流は、1100~1200度の高温とみられる。岩田孝仁(たかよし)・静岡大特任教授(防災学)は「急斜面以外では、溶岩流は速足で歩くよりも遅い。避難する余裕はある」と冷静な対応を呼びかける。

噴火後の復興は困難

溶岩流を巡る最大の課題は、復興の難しさだ。伊豆諸島・三宅島の噴火(1983年)では、溶岩流が噴火後約2時間で島内最大の集落を襲い、約330世帯の住宅をのみ込んだ。

写真説明:三宅島の噴火で発生した溶岩流にのみ込まれた集落(1983年10月)

住民はいち早く避難したため無事だったが、小学校の校舎3階近くにも達する厚さで冷え固まった溶岩の撤去は難しく、溶岩内部にできた空洞が崩れる恐れもあり、隣接地への集団移転を余儀なくされた。

鹿児島県の桜島では1914年、「島」だった桜島が噴火後に陸続きになるなど、地図を書き換えるほどの大規模な溶岩流が発生するケースもある。被災地を元の姿に戻すのは困難を極めることになる。

東名・新東名高速、東海道新幹線は…

東名、新東名高速の噴火対策について、中日本高速道路は「事業継続計画(BCP)では主に降灰を想定しており、溶岩流は特に明記していない。今回のハザードマップを受け、見直しが必要かどうかも含めて検討している」と話す。

JR東海は東海道新幹線の防災対策として、特に巨大地震や大津波への備えに注力してきた。建設工事が進むリニア中央新幹線は富士山の北側を通る計画で、完成すれば東海道新幹線のバックアップにもなる。

同社は「溶岩流が想定される地域では、速やかな避難誘導や地域外への車両移動などを行う。引き続き噴火の議論を注視しながら、適切な対応を講じたい」としている。

山梨県の関尚史・火山防災対策室長は「溶岩流の撤去は難しく、覆われた土地は何十年も使えなくなる恐れがある。現実問題として、復旧復興には多くの困難が予想される」と指摘する。

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