首都が水没したらどうなる?災害シミュレーション


写真説明:荒川(中央)と中川(右は東京都江戸川区、左手前は江東区 2020年4月7日撮影)

日本は、気象災害や地震、津波などの発生リスクが高い。被災すると、身の回りで何が起きるのか。シナリオを想定し、自分や大切な人の命を守るための備えを確認していく。

埼玉県の利根川が氾濫すると、約50km離れた東京都の海抜ゼロm地帯までが水没する――。国の中央防災会議は2010年、200万人を超える首都圏住民が浸水被害にあう水害の想定をまとめている。防災科学技術研究所水・土砂防災研究部門の三隅良平・部門長の書籍「気象災害を科学する」(ベレ出版)を参考に、「首都水没」で住民に何が起きるのか、具体的なシナリオを作った。

シナリオ1 テレビで「氾濫危険水位」…202X年9月Y日朝

東京の荒川と江戸川に挟まれた海抜ゼロm地帯に住む会社員の太郎(45)は朝7時、テレビをつけた。ニュースで「埼玉県加須市の利根川水位観測所で氾濫危険水位を超えました。厳重に警戒してください」と伝えていた。巨大台風が関東の内陸部を通過するという。

2階建ての自宅から加須市まで約50kmも離れている。太郎は大して気にせず、出勤した。

妻の花子(43)が昼、スマートフォンに電話してきた。「避難指示が出ているの。帰ってきて」

埼玉県で利根川の中流があふれ、数日後には、はるか南の都内にある自宅まで浸水しかねないという。その間の広大な地域は、かつて利根川の河道や河口だった。1947年の「カスリーン台風」による洪水でも、ほぼ同じ範囲が浸水したらしい。

太郎は午後に大事な会議が控えていた。「悪いけど先に避難して」と伝え、電話を切った。「ハザードマップ」によると、自宅は水没しやすい地域にある。しかし、会社のフロアから外を見ると、雨も降っていなかった。

シナリオ2 「首都圏230万人避難指示」…夕方

夕方、スマホでニュースを見ると『首都圏230万人に避難指示』と伝えていた。帰宅すると、家にはまだ家族がいた。花子は、同居する80歳を過ぎた両親と幼稚園児の長男を連れて、徒歩で避難できなかったのだ。5人での避難所生活も心配だったらしい。

事態はさらに切迫し、テレビは、明日夜にも自宅が浸水する危険性を報じ始めた。花子は「避難所より遠くても、ホテルや旅館が良い」と言い張り、道路が混む前に車で出発すると訴えた。


太郎は「分かった。僕は家がどうなるか不安だから残る」と応じた。花子ら4人は深夜にもかかわらず、準備していた水や缶詰などの「災害用備蓄」を乗用車に積み、出発した。

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