高層ビルで大地震!長周期地震動で揺れが大きく長く襲う(前編)

シナリオ3 マンション40階の自宅 停電した室内に家具が散乱

電車は止まっていた。「歩いて帰るしかないな」。液状化現象で、地中にあるはずのマンホールが浮き上がっていた。傾いた住宅はあったが、倒壊はしていないようだ。食べ物を買おうと思ったが、コンビニの棚は空っぽだった。

近くの戸建て住宅で暮らす両親宅に立ち寄ると、食器がいくつか落ちただけだったという。自宅のタワーマンションにたどり着いたが、ここでもエレベーターは停止していた。疲れ切った体を引きずるように階段で40階を目指す。壁面のモルタルがはがれ落ちているので、足元に注意が必要だ。

花子と長男の一郎(1)にけがはなかったが、停電した室内は家具が転倒していて足の踏み場もない。ベランダのガラスに机が激突して、割れかかっている。危ないので靴のまま自宅にあがる。

かつて花子が家具を固定しようと言った時に、「クギを打つとマンションの資産価値が下がるかもしれない」と反対したことを思い出した。反省しかない。

おなかをすかせた一郎が泣き始めた。ミルクと水は少しなら買い置きがあるが、温める方法がない。カセットコンロや防災用簡易トイレだけでも買っておけば――。

「避難所に行くしかないのかな」。日が暮れて冷え込んでいく室内で、太郎は途方にくれた。
(後編に続く)

(シナリオ監修 福和伸夫・名古屋大教授)

(読売新聞 2021年12月15日掲載 「防災ニッポン 高層ビル」 科学部・松田晋一郎、村上和史)

後編では、高層ビルの長周期地震動対策や、個人でできる備えなどを紹介します。

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