劇場で大地震に遭遇したら!(前編)正しい避難行動できますか

シナリオ2 火災発生でも落ち着いて避難…焦燥

幸い、舞台上も客席からもけが人は出なかったようだ。だが、数分後、舞台の方からきな臭いにおいが漂ってきた。お芝居でロウソクの火を使っていたのが、運悪く何かに燃え移ってしまったようだ。

場内アナウンスは「火災が発生しました。係員の誘導に従って落ち着いて避難してください」「慌てないでください」と繰り返される。一刻も早く非常口へ向かいたい。はやる気持ちを抑えつつ、太郎と花子は行列に並び、前の人を押さないように気を付けながら、少しずつ歩を進めた。案内係が大きなペンライトのようなものを持って非常口の前まで誘導している。もし将棋倒しのような事態になったら大惨事になるだろう。

避難している間も、断続的に大きめの余震が起こっている。花子はハイヒールを履いて来たので、階段を下りる時などは転んでしまいそうで、怖くて仕方がない。腰を落として、夫の太郎と手をつないだり、イスなどに手を置いたりしながらゆっくりと移動するようにした。天井から何かが落ちてこないかも心配だ。

シナリオ3 スマホ電池が減っていく…後悔

ロビーから劇場の外まで出ることができた。火災もぼや程度で収まったようだが、電話は相変わらずつながらない。聞けば、劇場内には無料で利用できるWi―Fiが完備されているという。災害時のため1人当たりの使用時間は制限されていたが、ロビーに戻って長女にLINEを送り、何とか無事を確認できた。

一刻も早く家に帰りたいが、電車やバスなどの公共交通機関は完全にマヒ。タクシーをつかまえるのも不可能のようだ。結局、他の多くの観客と共に、劇場ロビーで一晩を明かさざるを得なくなった。劇場が備蓄していた非常用の乾パンと水、毛布が配られた。毛布にくるまって過ごしたが、寒さがこたえる。食事は観劇後にする予定だったので、空腹ですぐに非常食に手をつけてしまった。これから朝まで眠れそうになく、カバンにあめ玉でも入れておけばよかったと後悔した。

スマホで災害ニュースを見続けるうちに、みるみる電池の残量が減っていく。子供たちと連絡を取るための貴重なツールだけに、大事に使わなくてはならない。劇場は電源を提供してくれているが、充電時間は制限されている。携帯バッテリーの重要性を痛感した。

(後編に続く)

(読売新聞 2022年1月18日掲載 「防災ニッポン 劇場・ホールで」 文化部・森重達裕、竹内和佳子)

後編では、劇場で災害に遭った時の心構えや携帯していると安心できるグッズなどを紹介します。

<関連する記事はこちら>
災害時はレベル4「避難指示」までに必ず避難する!

無断転載禁止

この記事をシェアする

オススメ記事

新着記事

公式SNS