劇場で大地震に遭遇したら!(後編)身を守るための対策編

災害時は文化財保護も課題

博物館や美術館は災害時に来館者の安全を確保するだけでなく、収蔵品や展示品を守らなければならない。1995年の阪神大震災以降、博物館などは地震に重きを置いた対策をとってきたが、近年は台風や豪雨による被災も目立ってきた。

収蔵品の水害対策

2019年10月の台風19号で内水氾濫が発生し、地下収蔵庫が浸水した川崎市市民ミュージアム(川崎市)では今なお、被災した収蔵品の修復作業が続く。絵画や歴史資料など収蔵品約26万点の9割に当たる約23万点が被害に遭った。湿度温度の管理がしやすいことや建物の高さ規制などから、多くの美術館は収蔵庫を地下に構えている。

国立文化財機構文化財防災センターの小谷竜介・文化財防災統括リーダーは「最低限、ハザードマップが示す地域のリスクを、クリアできる体制と施設を作ることが重要」と指摘する。

2017年に開館した富山県美術館(富山市)など、水害に備えてあらかじめ上層階に収蔵庫を設ける施設も出てきた。ただ、いったん地下に構えた収蔵庫を上層階に移すのは容易ではない。

ソフト面の対策強化の取り組みも

こうした中、ソフト面の対策を強化してハード面の弱点を補う取り組みも始まっている。横浜港に面した横浜市の関内地区に位置する神奈川県立歴史博物館。標高は約2mで、メインの収蔵庫は地下にあるが、旧館部分は重要文化財に指定されていて大規模改修には制約がある。

そこで同館は2019年に、災害時に収蔵品を避難させるための緊急搬出計画を策定。浸水と火災を想定し、状況に応じてどのような優先順位で、上階や館外に緊急搬出するかを明文化した。2020年からは毎年、計画に基づく緊急搬出訓練も行っている。

写真説明:神奈川県立歴史博物館で行われた緊急搬出訓練では、台風を想定して仏像など約700点の資料を搬出した(2021年12月21日撮影)

同館の千葉毅主任学芸員は「収蔵庫をより安全な場所に移した方がよいことは確かだが、まずはすぐに着手できるソフト面から始めている」と語る。

(読売新聞 2022年1月18日掲載 「防災ニッポン 劇場・ホールで」 文化部・森重達裕、竹内和佳子)

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