「災害時には普段やっている事しかできない」
地震や風水害が起きると、人の心はどんな影響を受け、集団としての社会はどのように立ち振る舞うのか。社会心理学の立場から、災害の実像を見つめ続けてきた。
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1995年の阪神大震災で
6434人が亡くなった1995年の阪神大震災。京都大教授時代に、約400人から体験談を聞き取るプロジェクトを主導した。対象は、被災住民から、ボランティア、危機管理に奔走した首長や企業トップまで。立場が異なる人たちの経験をつぶさに分析することで、災害時の共通体験や復興に必要なことを見つけ出す試みだ。
写真説明:阪神大震災に見舞われた神戸市。明かりが消えた市街地の所々に炎が上がっていた。マグニチュード7前後の地震は毎年のように日本のどこかで起きている(1995年1月17日夜、撮影)
口述記録には…
「地震発生後しばらくの間、街は異常な静けさに包まれていた」「空襲の戦争体験があったおばあちゃんが枕元に懐中電灯と着替え、携帯ラジオを置いて寝る習慣があったので、とても助かった」―。こうした口述記録を読み解くことで浮かび上がったのは、「災害時には普段やっている事しかできない」という教訓だった。
阪神大震災以降も
教訓には続きがある。「普段やっていることも満足にできない」、況(いわん)や「やっていない事は絶対にできない」。2001年の米同時テロ、2011年の東日本大震災など、災禍のタイプが異なるどの現場でも、この言葉を繰り返し聞いた。「災害が起きるとパニックに陥ると思われがちだが、実際には何もできない人が多い」というのが、分析から得られた実感だ。
自然災害の発生そのものを防ぐことはできないが、事前の備えがあれば、被害を少しでも食い止め、復興も進めやすくなる。数々の災害が、私たちに教えることだ。
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